静かな生活

静かな生活。
わたしが勤めている会社は緊急事態宣言を受けてチーム分けして交代で勤務をしているため、出社する日や、した場合も顔を合わせる人間が限られている。通勤時の満員電車を含め、なによりもたくさんの人に会わない、触れない、話さないことが自分にとってこんなにもストレスフリーで気楽なものだということを知ってしまい、緊急事態宣言解除後の、コロナ前の勤務環境に戻ることがいやで、心配している。自分自身よりも周りに適応することを優先するところがあり、幸いに仕事や収入面、健康面で大きく脅かされることがなかったことも重なり、非常事態のなか、その環境を受け止めて、静かに生活をしている。もちろん会いたい友人も、制限されている娯楽や活動もそれなりにあるんだけれど、叶えられない欲望によって起こるフラストレーションより、それらを求めないことにしているほうが、はるかに気持ちが楽だ。会えないのに「はやく会いたいね」と言うことや、できないのに「したいね」と言うことに、ストレスを感じる。そのため、あまりやりたいこともなく、ストレスもないようにして、暮らしている。きっと素直じゃないんだけど、そういう考え方の癖がある。
そう考える自分に罪悪感を感じている。多くの人は今の状態からの脱出を求めているだろうに。わたしには大事なものがなかったんだろうかと、かなしい気持ちになる。前より、今よりいい未来があると思えず、多くの人に気づかれないまま消えてしまえればと思うこともある。
以前より家にいる時間が増えたので自炊をするようになった。仕事帰りにスーパーに寄って数日分の食べ物を買い、いつもより少し遠い道のりをよっせよっせと歩いて帰る。近所の花屋で元気なおじさんから花を買い、パソコンの向こう側に置いて眺めている。コーヒーを淹れて、お菓子屋さんで買ってきたチーズケーキを食べている。
自治体が朝昼夕に流す「緊急事態宣言発令中です。外出はできるだけ控えましょう」という放送がいちばん非日常感がある。まるでアニメか漫画に出てきそうな異様な風景。
 
Ariana Grande & Justin Bieber ”Stuck with U”がいい曲で、リリース日の夜深くひとり泣いてしまった。表現で、言い方とらえ方次第で見え方がまるきりかわってきて、これはまさにコロナ禍中にいる人が作り歌い聴く歌で、でもこんなに幸せなラブソングになるなんて。音楽ってこういうものだった。Uはもちろん君でありあなたであり、家族でありパートナーであり、コロナかもしれなくてそして自分自身でもある。和訳で「立ち往生」と訳しているのもあり苦笑しちゃったけど、もちろんそうでもある、仕方なくて、でもどうしようもなく一緒にいるしかなくて、そして一緒にいる。それをポジティブな選択に歌い替えている。きっと救われる心がたくさんあるだろう。 有名人でもそうでなくても、この大変な中でも果敢に動き出す人たちがいて、その行動に勇気づけられている。