Friday Night

その1:ソウルバーへ。
同伴で来てるお姉さんやピッタリとした衣装を着て華麗に踊るお姉さん(おばさん)たち、「女」としてこの場でわたしは底辺にいて、例え「若さ」があったとしても、それってなんのアドバンテージにもならなかった。朝適当に選んだオフィスカジュアルだし、仕事終わりで化粧も落ちかけてまつげもあがっていないし中途半端に伊達メガネをかけていて。悲しいというよりまあそうだよね、という当たり前の事実であるんだけれど、女として情けなかった。来週からはもうちょっと「女」としてがんばろう、と思った。
ソウル/ファンクという音楽はわたしが普段生活している中で聴いていたことはほとんどないのに、周りの大人たちは誰の・何という曲だ、知ってる・知らないと嬉しそうに言い合って、楽しそうに身体を揺らしていた。音楽が大きい音で鳴ってるのはライブハウスやクラブと同じのはずなのに、まったく知らない言語を使う場所のようだった。少しぽつねんとして寂しかった、大きい音で音楽が鳴っていたのに。時代によって低音の鳴りかたが全然違うのを教えてもらう。知らなくてもリズムが流れていれば適当に揺らせるし私の身体は軽薄だ。でも楽しかった。
その2:JAZZ HOUSEへ。
ジャズって刹那だね。 どういう仕組みで、どういうルールによって演奏がされているのかもよくわからないんだけど、きっとほぼアドリブでソロを回しながら曲が進んでいて、終っていく。今ここで鳴ってる音が素晴らしく楽しくて、どんな曲だったかって思い出せないし言い表せない。耳から聴いてる音楽なのに、そこから五感で感じたり思い出したりした。今そのメロディーはきっと蒼が綺麗な海の深いところ、また緑広がる草原だったりするはず。すごく心地よくなめらかに流れるメロディー。なんと味覚さえ思い出した。「あ、いま酸っぱい」と感じた(嗅覚はなかった)。
ことばがないから解釈も気にならず何を感じても自由だと思えて、むしろ彼等が何を題材として演奏してるかもわたしにはあまり関係なくて、いま鳴らされるメロディーが気持ちいいかどうか・というそれだけだった。知的でもなんでもないバカみたいな聞き方なのかもしれないけれどジャズに対しての無知がわたしにそれを許した。音を聴いているのが楽しくて心の底から笑顔がにじみ出ちゃう、というのは数年前にoono yuukiバンドをnestで観たとき以来、の出来事だった。わたしは特にテナーサックスが好きで好きで、音色というか、その音域にグッと、くる。誰かが話してるみたいな声。
この1ヶ月はジャズが好きで、といってもジョン・コルトレーンの『Blue Train』だけをもうずっと延々と聴いていて。友人に「Blue Giant」を貸してもらって一気に読み、一度生でジャズのライブを見てみたいものだと思っていて、連れてってもらった。その日は会社のBBQがあったのだけど、一度帰って場にふさわしそうな服に着替えて出かけた。アホみたいかもしれないと思ったけどどうしても必要だと思った。煙に炙られて燻製みたいな匂いがしていたはずだからわたし。「お冷や」を頼んだらなぜか「テキーラ」が人数分出てきて、よければ飲んでくださいというから、頂いた。久しぶりにこの喉がカッとなる感じ。ちゃんと寝過ごさずに帰れたけれど適当に布団もかけずに寝てしまったので3日後くらいに風邪をひく。
その3:銀座のバーへ。
水商売の場所、へ足を踏み入れたのはそのときが初めてだった。こういう場所なのか(!)という驚きというかまばゆい新鮮み。キャバクラとはまた違った趣なのかもしれないが、男の人がああいう場所へ行きたがる理由がよくわかった、というのが一番の収穫物であった。きっと凄く楽しいのだ。
わたしはといえば、やはり気の抜けたオフィスカジュアルで、毛羽立ったよれたワンピース、マスクで化粧が落ちた顔、伸びかかったショートカット、強い度入りのメガネ、という女度の低い格好であったので、上に書いたような「女」としての底辺をひしひしと実感する。自分も女でありそれを生かしきれていないのだと(生かせるのか?)。みんな、丈が短いスカートを召している。化粧がばっちりでスキのない感じ。わたしと同い年か年下かと思わせる人もいた。彼女たちへの敬意、をまず第一に握りしめる。
そんなわたしにもやさしかった。「顔がちっちゃいですね」とか「剛力彩芽に似てますね(言われたことない)」とか「冷静なんですね」とか持ち上げてくれる。そしてそこに軽蔑を感じさせなかった。まあ嘘でもホントでもどちらでもよいのだけど、それでもうれしい、といった具合の。
そして一緒に行った男性陣がどの方も非常に楽しそうだった。会社の役職とか立ち位置とか仕事とか、家庭とか彼女とかきっとその瞬間はどうでもよくて、ただ男として気持ちいいのだろうと思った。色っぽい服を着た女性が自分の隣についてなにかおもしろいことを話せば手を叩いて高い声で楽しそうに笑ってくれるし、膝になにげなく手を置いたり肩に触れたりのさりげないボディータッチも嬉しいし、お酒はかかさずについでくれる。その喜びに金を払う。
女性達は席を立ち入れ替わったり席順を変えたりする。各々がデザインを選んだという華やかな名刺をくれる。「いただきます」と笑って下からグラスをあてて乾杯してお客の酒をうすーく水割りにして飲む。サービスを供さねばならないタイミングを決して見逃さず、ひどくてきぱきと手を動かす。広げてあたたかいおしぼりを差し出してくれる。客の無茶ぶりがひどかったらきっとすごく困るのだろう。わたしは女として、彼女たちの仕事をすごいなあと思った。あまり多くはいえないのだけれど。
おみやげに巨大なパン、フランスパンまるまる1個をもたせてくれる。真冬の寒気が流れ込んでひどく冷えているのに、上着もかけずにノースリーブで出てきてさよならを言ってくれた。いくらだったのかは知らない。

タクシーで真夜中に帰ると、いつも家の前にタヌキがいて、近づくうちにさっと消えて行く。