春が来そうでさびしいだけ

平賀さち枝『23歳』を買って、幾度か聴いた。彼女のポップ・シンガーとしての第一歩、となる1枚だと思う。世の女の子は、使い捨てられるJ-POPソングではなく平賀さんの歌を聴いてときめいたり少し涙したり、するべき。ユーミンみたいになりそう。
場所についての歌はずるい。実在する場所はそこでたくさんの人が行き交うし、それぞれの思い出が染み付く、歌もそのひとつになる。「NO MUSIC, NO LIFE」という曲はタワーレコードへの想いを歌った曲だそうで、タワレコ新宿店では7Fレジ前に大きく展開されていた。私も、「江の島」を聴いて、江の島へ行きたくなってしまう。
平賀さんには、実際にお会いしたこともあるし少しお話したこともあるけれど、私は彼女がどういう顔をしているのか未だによくわかんない。きっと自分がかわいいことを知ってる人。いろんな表情を持っていて、いろんな人に見える。メランコフでの写真集を眺めてると、かわいい、けど、いやほんとにかわいいのか、どうなのか、全部平賀さち枝なのに、どれが彼女の顔なのか、とずっと惑わされてしまう。http://issuu.com/tanashin/docs/hiraga_melankov5/34
私は「江の島」が一番好き。江の島という場所に、私の思い出がたくさんあるから。小品だけれど「春が来そうでさびしいだけ」も好き。こんなちっちゃい気持ちも歌にしちゃうところが好き。
たしか、YoutubeのJACCSカードのインタビューで、恋人と別れた、という話をしていた。そのせいかわからないけれど、終わりを意識する歌詞がところどころで聞こえる。終わりは嫌い、けれど香ってくるその気配にはどうしても惹かれてしまう。こんなにきらきらしているのに、いつかは終わる。終わりが無いものは嘘だ。気配に怯えているんじゃだめで、だからこそ今なんだ、っていう気持ちでいられたらね。男の人の歌みたいに湿っぽくなくていいなあ、見ようによっちゃあ残酷な、すかっとした諦念がある。
「いずれいつかは消える 眩しい光に 一人でかけて行く / 愛しい今 江の島へ行く途中」

レジ前に展開されてたCDなんて買ったのいつぶりだろ、Youtubeを回ってると平賀さんの動画だけ再生回数の桁がずば抜けて違っていつも驚く。
何度も聴けちゃうミニアルバムという尺もずるい。『23歳』というタイトルもずるい。年を重ねるとき誰もが通る1年間で、どうしても、過去の自分の23歳と重ねたり、これから訪れるその1年を心待ちにしたりして意識するから。私も今年23歳になるし、その1年間もこのアルバムは何度も聴くだろうと思う。もう、19歳や20歳とはまったく違う。これからのことを考えるのはとても難しい。

踏切にマリリンモンローのネクタイが落ちてた。焦げつくようだ、日々。