なにもつらくない、なにもかなしくない

私の音読したくなるほどお気に入りの文章を載せます。愛していた人に対してこんなこと言えるなんて凄まじい。でもわからなくない。
「なるほど、彼女の言う通りだったのだ!私は幻を愛していたに過ぎないのだ。かつて愛していた、そして今なお愛し続けているアリサは、もういはしなかったのだ……。いや、きっとわれわれが年を取ったのだ!私の心を凍らせたあのひどい幻滅も、結局、自然に返ったに過ぎないのだ。勝手に自分の好きなもので彼女を飾り立て、次第に彼女を真価以上に持ち上げて一個の偶像に仕上げてしまったものとすれば、その努力の結果として疲労以外に何が残っただろう?」アンドレ・ジッド『狭き門』(1999)川口篤訳