水底

会社説明会で聞く価値観の合わない社長の話ほどつまらないものはないです。10年後のプランを立てよう、と言う。10年後どうなっていたいかを具体的に思い描けば、そこから逆算して今日何をすればいいかがわかるはずだ、とのこと。なるほど確かにそのとおりで、そうすれば毎日何をすればいいかわからないとか悩んだり、足踏みしたりすることはなくなる。 正しいと理解してそうするべきだと認識することと、それをしたいかということは別の話だ。 そんなの、10年前に思い描いた自分にしかなれない。会社員になるためにはそういう思考法が必要なのだから、素直に話を聞けばいいのに、と歪んだ自分に呆れる。
努力をし続ける人こそが立派な人間だ、と教わった学生時代に、私は努力する人の輝きを眺めることと諦めしか学ばなかった。私は話そうとしなかったし、話を聞く人もいなかったと思う。素直じゃない自分に嫌気がさす、いつも誠実でいたいと思う。でも、素直でいないと誠実さは伝わらないよねえ。浅い浅い私は、どうでもいいことを喋り続けて、恥ずかしい、浅い奥行きに気付かれて、いつか見限られてしまう。もっと深くまで、さて深さはどこ。このままだとつまらん人間になってしまう。どこにも行けない。
体温を奪う小雨の中、歩いて帰ってきた。歩くと生の感情を素手で触れるような気分になる。春が来ている。白い梅が咲いて、雨に打たれて花びらを散らす。クロッカスが紫色のつぼみをふくらます。道端に小さな白い花とピンクの花が咲く。なずなが咲く。あじさいの枝から緑の葉が生えてくる。 以前、春に「感情抜きで涙腺を刺激」されると書いたけれど、oono yuukiさんの歌声も春の匂いと同じだなあ、と思う。彼の歌は、どうしても私は言葉で表せない。掴めなくて、少し震えていて、やさしい、まっすぐに心に聞こえてくる。「四月」という曲が一番好き、たくさん、口ずさむ。