それでも

南池袋ミュージックオルグに、土井玄臣さんのレコ発ライブに行ってきた。
会場にいっぱいになった人みんなが、空間の中央に居る土井さんを静かに見つめていた。彼はギターを弾きながら、サンプラーを流しながら歌ってて、ライブというよりコンサートみたいに思えた。
「レコ発」と冠したライブに緊張して少し固くなっているようだったりサンプラーのデータが全消えしていて前日の夜に急いで作った、という準備不足もあったりで、全編全力のライブが観られた、というわけではなかったけれど、それでも、彼が歌うのを目の前で見る、聞く、ということがとても、大切なことだ。
アンパンマンのうたアレンジverから始まり、「Nanzen」「Phantom Light」「オスカー」「尼崎の女」「ハルカ」「言祝」、アンコールで「朝謡」をやりかけて止めて、「AURORA」を1番だけやって終演、という流れだったかな。『それでも春を待っている』と『んんん』というアルバムからの曲を歌ってくれたけれど、未音源集からやってもきっと、彼の歌はどこかがつながってるのだと、これからもっとちゃんと聴き込んでいきたい、いかなきゃ、と痛感した。メルトダウン、死んでしまった彼女、そして呪いと祝福。最後の「言祝」を歌う前に、このタイトルは言葉で祝福することなのだと説明して、呪うことと祝福について、震災があった後から特によく考えているんですと、「今やっている行為がすでに呪うことなんだと思う」と(人の話した言葉をすぐ覚えられない、こうじゃなくて別の言葉で話していたと思う、でもこのようなことを言っていたはず)、でも「それでも」、祝福するのだと、頭を抱えながら言葉に詰まりながら話してくれて、ずっとおもしろい調子で楽しくMCを進めていたからさらに、彼のことばで言ってくれたこと、そしてそれを土井玄臣の歌を聴きにあの場所に集まった50人ほどの人たちと共有できたことがうれしかった。
まさか、「ハルカ」を生で聴けるとは思っていなかった。サンプラーから流れるピアノに乗せて彼が語りだすと、その姿は歌うたいの土井玄臣じゃあなく"ハルカ"という女の子だった。身振りや歌い方まで女の子らしくかわいらしくなってる様に本当に驚いて、感動でなんだか胸が痛くなりそうだった。
そうだ、彼はナントカ・ナントカ・レイという横文字の名前の女性と椿鬼奴が好きで、会ったことのある女性だとザ・なつやすみバンドの中川さんがすごく、好きですと、会場に来ていた彼女の目の前で話しているので笑ってしまう。そして中川さんと初めて逢ったときのときめきの歌、と紹介して「なんかヘンだ」という曲を歌ってた。どこかありふれていそうなときめきの歌だったけれど、「キリストとムハンマドが抱き合って〜」なんて言うんだから可笑しい。その曲ではちらりとも彼女のほうを見なかった。彼が上を向いて歌う姿が好きだ。
音源だとこのコードじゃなかっただろ、と思わす曲もいくつかあったけれど、「あれ忘れた」と言ってフレーズを弾いてる途中でやめてしまってえええ、ってなるときもあったけれど、笑って許してしまえるのは彼の明るい言動や雰囲気ゆえだろか。どうにも憎めない人で、失敗の残念な気持ちよりも好感が上回ってしまうような。言い過ぎかな、笑
今朝ピアノをだーっと弾き倒して(擬態語、擬音語を多く話す)トラックを作ったという「オスカー」もピアノリフがなんとなく違っていた、「尼崎の女」の、音源より悲しげなアルペジオも。けれど、彼の歌はまるで生き物で、それはいまここで生まれているんだ、と考えるとひどく納得できた、それは誕生のよろこびだった。一度曲になったメロディは、歌われることで、そのときまた生まれる。音源は、なるべく良い瞬間、良い姿で残しておこうとする写真のようなものかなと思った。
『んんん』を気に入ってくれた友人に新しいアルバムを渡すために購入したら余計にお釣りが返ってきた。前にライブに行ったときに少しだけお話したことを覚えてくれててうれしかった!カーディガンの青色と、一昔前のアイドルみたいなちょっと伸び過ぎた髪型が素敵でした。今日、私は柏のライブに行ったときとほとんど同じ服装をしていたと思う…覚えてくれていたからなおさら凹んだ。また東京来てくださいって4回くらい言ってしつこかったかもしれない。でもとにかく、土井玄臣、少しでも気に入ったのなら、何よりライブを観てほしいと思います。